モグネット ホーム インフォメーション お問い合わせ サイトマップ
ニュース ハンセン病 イベント&ワークキャンプ 茂木新聞社
ホーム  >  ハンセン病  >  中国のハンセン病  >  中国におけるハンセン病制圧の対策と現状

中国におけるハンセン病制圧の対策と現状

効果の評価 ※11、※12、※13

1949年から2000年までの全国累計によって以下のことが明らかになった。ハンセン病患者数48万人、症例数は、最高の1966年の335,506例から、2000年の6,404例まで97.9%減少、有病率は1966年の1万人当たり2.35人から、2000年の1万人当たり0.05人まで97.9%減少した。一方、新患症例数は、最高の1958年の63,791例から、2000年の1,611例まで97.3%減少し、発見率は、1958年の10万人当たり5.0人から、2000年の10万人当たり0.12人まで97.6%減少した。全国におけるハンセン病の流行範囲は縮小した。また、有病率が、1万人当たり0.1人以上の県(市)が、1958年の69.1%から、2000年の10%まで減少し、1万人当たり1人以上の県(市)は、1958年の42.6%から、2000年の1.4%まで減少した。新規患者の2級障害率は明らかに下降し、1958年の41.7%から、2000年の21.6%まで減少した。1980年の全国ハンセン病有病率は既に1万人当たり1人以下まで減少し、2000年までに、全国99%の県(市)のハンセン病有病率は、WHOが公衆衛生問題としてのハンセン病制圧の基準としている有病率1万人当たり1人以下に達しており、また、県(市)を単位とした90%が、中国がハンセン病制圧の基準としている有病率1万人当たり0.1人以下に達している。2003年末、全国の病例は6,552例あり、有病率は1万人当たり0.051人であり、一方、2003年に、新規に発見された病例数は1,411例で、発見率は10万人当たり0.11人であった。しかしながら、全国で新規に発症する病例の内、子どもが占める割合は引き続き4%前後で、新規に発症する患者の確定診断までの平均期間は、引き続き3年前後となっており、また、新規に発症する患者の内、2級障害率は、引き続き20〜25%前後となっている。以上のことから、病例の早期発見が今後一層改善されなければならないことは明らかである。

現在の課題

1. 一部地域におけるハンセン病の流行は深刻

中国においてハンセン病の流行が比較的深刻な地域は、雲南、貴州、四川、チベットと湖南省等一部西部地域である。2002年、全国における現患者と新患の60%前後は、すべて上述の地域で発生している。全国でハンセン病有病率が1万人当たり0.1人以上の281(11%)の県(市)の内、70%が上記地域にあり、有病率が1万人当たり1人以上の17県(市)も、すべて上記地域に存在している。一方、これら5つの省では、今なお3分の1の県(市)で、有病率が1万人当たり0.1人以上である。上述の地域は明らかに今後ハンセン病予防治療の重点地域となる。この他、江西省、福建省、広東省等の一部地域におけるハンセン病の流行も特に注意を払わなければならない。

2. 有効性に欠ける予防治療措置

これまで、ハンセン病には有効なワクチンがなく、予防治療は主に患者の発見と治療に頼るしかない。また、ハンセン病の感染源は依然として存在するため、多数地域では、かなりの長期間にわたって、新規発症患者や再発患者が発見されることになる。また、流動人口の増加に伴って、もともとハンセン病の非流行地域であっても、ハンセン病の病例が発見されることもあり得る。このため、早急にハンセン病の早期発見を強化する必要がある。

3.診断基準の改変がハンセン病予防治療に及ぼす影響

WHOはハンセン病を2000年までに全世界で制圧することを目標に掲げ、大きな成果を挙げてきた。しかし、WHOが提唱するハンセン病診断は、臨床症状と身体的特徴にのみによるものであり、現場では皮膚スメア検査を実施する必要がなく、また、皮膚の病理検査を行うという考えがない。資料によれば、ハンセン病診断の質そのものが下降している国もあることがわかっている。アフリカ諸国では、ハンセン病撲滅キャンペーン中に発見された新規病例の内、30%が過剰診断であり※14、一方、ミャンマーで新規に発症した病例の内、18〜30%が過剰診断であった※15。また、インドの異なる地域では、SLPB型ハンセン病の誤診、あるいは過剰診断が10〜50%に達している※16。もちろん、過剰診断を誘発する原因はたくさんあるが、現場で皮膚スメア検査や必要な病理検査が行われないことがその重要な原因の一つであると考えられる。これは中国の少数地域でも既に影響が生じている。近頃、WHOのハンセン病指針(※17)では、ハンセン病診断の主な身体的特徴を「明らかな知覚脱失を伴う皮疹」まで狭めている。中国における新規発症病例では、多菌型が65%前後を占め、上述の診断基準に従えば、著しい割合のハンセン病腫型に近い多菌型患者が、すぐには確定診断を得られないはずである。このため、上述の皮膚スメア検査や病理検査の取消、診断基準の簡素化、ならびにMDTの面前服用や監視測定要求の改変は、国によっては適切であるかも知れないが、中国におけるハンセン病低流行の条件化では、ハンセン病予防治療の質に対する影響が憂慮される。ハンセン病制圧の実施計画は政府上層部の承諾と非政府組織の支持を得、ハンセン病予防治療事業を推進させたが、同時に、一定のマイナス影響も生じた。特に、ハンセン病対策が目標に到達してからは、政府のハンセン病に対する取組みが日増しに減少し、注意の矛先はハンセン病から結核やエイズへ移っていった。また、目標到達後は、「達成」や「業績」が過剰に宣伝され、有病率の目標が下降したことを過剰に強調し、発見率は下降していないと言う事実には目を向けず、政府のハンセン病予防治療事業への継続審議の行く末まで影響を及ぼしている。ハンセン病制圧の対策上限を2000年までと定めてしまったため、2000年以降も、未だ多くの問題を抱えているにも関わらず、一般市民は、おそらくハンセン病は既に根絶されたものと認識しており、必然的に予防治療事業の更なる展開に影響を及ぼしている。また、ハンセン病の予防治療において、未だ多くの技術的難題が存在するという状況下で、ハンセン病の科学研究に対する支援はますます減少しており、有意義な課題への経済的援助を獲得することは容易ではない。ハンセン病予防治療事業の社会的公益性の特殊さゆえ、市場経済の中では競争力に乏しく、ハンセン病予防治療事業の後継者不足が顕著になっている。もし、ハンセン病の予防治療事業を終息してしまえば、一部地域の「放置された病例」がますます増加し、これが局部的な流行を引き起こすことになると思われる。

1234次のページ

[著者:李文忠(中国医学院皮膚病研究所)、原典:日中医学(財団法人日中医学協会、2005年5月発行)、2008年12月30日]

※この記事は、日中医学協会の許諾を得て転載したものです。
モグネット https://mognet.org