2002年10月16日
ハンセン病問題に関する事実検証調査事業(ハンセン病検証会議)
主催:財団法人日弁連法務研究財団
第1回ハンセン病検証会議が16日開催された。その目的は、ハンセン病終生強制隔離政策が89年間続いた原因と人権侵害の実態を究明するため、医学的・社会的・歴史的・法学的な観点から検証を行い、さらに過ちを繰り返さないよう提言を行うことだ。
この検証会議は、国のハンセン病政策を批判した熊本地裁判決後に厚生労働省がその設置を表明して以来、15ヶ月を経過して発足した。この遅れ自体が「ハンセン病問題が軽視されている証し」と谺雄二委員。
本検証会議の下には「検討会」が設置され、検証会議が検証を行うために必要な調査・検討・報告書を作成する。先立って同日開催された第1回検討会では、会議・議事録を原則公開とすることや今後のスケジュールについて話し合い、続いて第1回検証会議・第2回検討会合同会議でそれらが確認された。
議事録の公開は、すべての話し合いを録音し、患者の医療上のプライバシーに配慮したうえで原則として逐語で行う。これまでのハンセン病政策は密室で決定されたために人権侵害が起こったという側面があるので、検証会議が「いま何を調べているのか(国民に)知ってもらう」(藤野豊)ことが重要だ。
今後のスケジュールは過密だ。本年度中に中間報告をまとめ、来年度末には最終報国を提出する。その間、検証会議の委員は全国のハンセン病療養所13ヶ所すべてを訪問し、療養所でも会議を開く。多忙な委員が多く、休日返上で検証に当たる。
その他の問題点となりうるのはその検討事項だ。検証会議の主催団体・(財)日弁連法務研究財団が呈示した検討事項は11項目(表1参照)あるが、昨年度の研究班が設定した研究課題25項目(表2参照)から大幅に削減されている。その検討事項はあくまで基本的検討課題であり、11月前半の合同会議にて課題事項を広げるのは可能とのことなので、行方を見守りたい。
・ 目的:ハンセン病問題究明・再発防止
・ 15ヶ月遅れで発足
・ 下部組織として検討会を設置
・ 会議・議事録は原則公開
・ 過密なスケジュール
・ 昨年度に設定した研究課題は反映されず
表1: ハンセン病問題に関する検証会議・検討会の基本的検討事項(事務所案)
検討1 | 1907年「癩予防ニ関スル件」から1953年らい予防法制定に至る経緯 |
検討2 | らい予防法が1996年まで改廃されなかった事情 |
検討3 | 優生保護法第3条第3号制定の経緯 |
検討4 | 上記1・2・3に関して、諸外国政策との比較 |
検討5 | 上記1・2・3に関して、医学会が果たした役割 |
検討6 | ハンセン病に対する偏見差別が作出・助長されてきた実態(無らい県運動、マスコミの役割等) |
検討7 | 断種・堕胎・重監房・監房・強制労働・貧困な医療等の療養所実態 |
検討8 | 被害の全体像(家族との断絶・家族被害・社会復帰の困難・隔離の精神的影響等) |
検討9 | 沖縄及び日本占領下地域におけるハンセン病施策 |
検討10 | 上記1ないし9を踏まえた再発防止のための提言 |
検討11 | ハンセン病政策の実態に関する資料の収集・データベース化 |
1 | 江戸時代の「癩」病観とその形成過程 |
2 | 近代のハンセン病患者への差別感 |
3 | 隔離収容政策の開始と療養所の実態 |
4 | ハンセン病政策における性と生殖の管理 |
5 | ハンセン病政策と優性政策の結合 |
6 | 隔離の強化拡大とそのなかの被害 |
7 | 無癩県運動の推進 |
8 | 「特別病室」及び「癩刑務所」設置の目的と実態 |
9 | 療養所外のハンセン病医療の実態 |
10 | アジア・太平洋地域のハンセン病患者の処遇 |
11 | GHQのハンセン病認識 |
12 | 「らい予防法」の「改正」による隔離強化の理由 |
13 | 藤本事件の真相 |
14 | 籐楓協会の役割 |
15 | 沖縄県のハンセン病問題 |
16 | マスメディアと文壇のハンセン病観 |
17 | 関係学会の役割と責任 |
18 | 情報を得る権利、知る権利の保証 |
19 | ハンセン病患者隔離に関する立法・法律、政策・行政の点検・評価システム |
20 | ハンセン病療養所の医療水準 |
21 | ハンセン病隔離収容政策の疫学的国際比較 |
22 | 1996年の「らい予防法」廃止までの過程 |
23 | 熊本地裁判決および「ハンセン病国賠訴訟』における論点 |
24 | ハンセン病政策に関する資料等の保存 |
25 | 再発防止システムの提起 |