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聖恵農場

工業化の中に繁栄の加島を広げる 聖恵農場

果てしなく広がる大工場群。その煙突から噴き出される熱気が、自然と足取りを早くさせる。ここ蔚山は、今や韓国最大の重工業団地として飛躍的な発展を重ねている。ほんの二十余年前までは、方魚鎮と長生浦を中心とした、ただの入り江と言っていいような港町で、みすぽらしくさえ見えたが、その地理的条件によって、今や重工業の核心都市として変貌するようになった。このような蔚山の変化とともに、慶南地域では最も安定的な生活基盤を築いて行っている村が聖恵農場である。

*聖恵農場の始まり
工業化による環境の変化にもかかわらず、滑らかな水を悠々とたたえている東川の流れに沿って五kmほど上流へ行くと、その支流であるシレ川と出会うが、そこに周辺の樹木に埋もれるようにしている大きな畜舎群が立っている。切り立った傾斜にもかかわらず八万余坪の広い大地の上にぎっしりと立ち並ぶ音舎群は、まるで造形物のように秩序正しく見える。一九五三年の初め、近隣の村々を放浪していた七、八名のハンセン氏病患者がこの土地に入植し、傾斜を成し雑木が絡みあっている土地をシャベルと鍬でならし始めた。
ここは社会的な冷遇と生活苦から逃れるために、地主にすがるようにして懇願して、苦労の末、やっと手に入れた土地だった。たとえ先行きが漠然としていても、彼等としては生活して行ける土地を得るために、最善の道を探したかったのだ。しかし、その共同基地に似たぞっとするような雰囲気に包まれた土地を手にしたものの、また、数多くの苦しみも経なければならなかった。
冷たい冬、吹雪が吹き荒れる日には、身動きする事もできず、大部分の村人は震えながら凍傷にかかり苦労をした。その時、幸いにも当局から支援された救護糧穀があって、生計だけはなんとか繋いで行く事ができたが、所得になるべき仕事の種はほとんどなかった。
六・二五動乱(朝鮮戦争) の復旧のために、当時は当局の方も大々的な事業を繰り広げていたが、
支援が不充分だったため大きな進展は見られなかった。そして、このような時代的な困難が、ここの
人たちをさらに押え付けていたが、彼等は自分たちなりに市場へ出て子豚を買い入れ、種子も購入して、狭くて小さな面積にもかかわらず、最大限に活用しながら熱心に働いた。そして、そのような苦しい努力を重ねる事によって、やがて彼等が抱いていた土地も直接買い取れるようになり、それによってさらに熱心に働こうという意欲も生じた。放浪生活からこの地に定着し、共同生活を始めてから満十年目になる一九六三年の初めには、村は五十世帯を越えて百六十余名という大所帯になっていた。第三共和国の出帆を前にして、当局の政策的な支援の下に定着事業が押し進められると、村人は畜舎を建て、家畜の数も増やして行けるようになり、農場に活カが溢れ出した。

*サラホ台風の被害
これまであまりにも軟弱だったため、あらゆる面で焦りがちだった聖恵農場は、それから日を追うごとにだんだんと祝福の農場へと変化して行った。日増しに家畜の数も増え、また、彼等が生産する産物が村の村民たちの経済を大いに助けた。
しかし、ここに来て思いもよらぬ試練を、彼等は再び味わわなければならなかった。集中豪雨と強風を伴ったサラホ台風が聖恵農場を襲って来たのだ。やっとの事で生活の安定を探り、発展の礎を築いて行こうとしていた矢先に、彼等が負わされた被害は実にひどい物だった。心を込めて耕した畑はもちろんの事、特に畜舎を襲った洪水は、家畜を根こそぎ奪い去ってしまった。そればかりではない。数名が洪水の中で行方不明となり、家財道具もことごとく水の中に沈むという凄惨な被害に遭った。しかし、このような苦難の中でも彼等は気を落とさなかった。最も苦しい環境の中にあっても、慈悲と愛を施して下さる神様は、まさか彼の子供たちまでは滅ぼしはしないであろうという望みがあったからだ。
洪水の痕跡を消すために当局は多方面にわたって被害者たちを助けようとして、軍官民が一体となって復旧作業を行なった。聖恵農場の村民たちも他からの助けだけに頼って、そのままじっとしていたわけではなかった。レンガを一日に一つずつ積んで行く事に限りはあっても、どうにかしてでも被害を復旧しようと積極的に努力をした。やがて、そのような熱心な努力のかいがあってか、洪水の痕跡も消え去り、再び建て直された畜舎からは鶏たちの騒がしい鳴き声が聞こえるようになった。

*専業養鶏への転換
その後、政府から第二次経済開発五カ年計画が発表されると、蔚山市と近隣地域は急速に発展して行った。その頃、自動車工業のメッカとしてその位置を固めていた蔚山地区の住民たちは、陰に陽に多く
の変化を感じた。一九七六年、村人たちはそれまで複合営農施策の一環として繰り広げられていたいろいろな事業を整理し、産卵鶏を重点的に飼育して行き始めた。畜協の融資を通して買い入れた牛のためにたくさんの負債を抱えるようになった聖恵農場は、産卵鶏の飼育に重点を置き直す事で、だんだんと揺らいだ基盤を整えて行った。さらに、畜産組合を構成して飼料供給線を縮小し、価格均衡を通して値段が安く品質が優秀な飼料の供給を受けられるようにすると、充分な対外経済力を備えて行けるようになった。このようにして火が付き始めた養鶏によって、聖恵農場はやがて蔚山地区で最も目覚ましく発展した鶏卵生産地になって行った。一九八八年現在、全村民が飼育している鶏の数は三十三万匹に達し、彼等が生産し出す鶏卵は一日平均二十万個にも至っている。もちろん個人的に見れば、数千匹にすぎない零細規模だが、それでも毎月飼料を百トン以上も消費するというから大変な規横である。

*鶏卵流通上の問題
しかし、このように多くの卵を生産し、かつ大量消費地が多い蔚山工団と隅指していながらも、大きな問題も抱えている。鶏卵価格の不安定だ。すなわち、蔚山工団には数十万名の勤労者たちが住んでいて全国各地から農水産物が流入して来るために、農産物価格が常に適正な価格を維持して行けないでいるのだ。特に、テグ、慶州、浦項などを前進基地として流入して来る卵は、聖恵農場を大いに困らせている。最近では数名の指導者たちが中心となって、関係機関と消費業者などを回りながら、直納形式の
販売改善策も探ってみているのではあるが、納品業者たちの横暴によって、その意志を貫けないでいるのが実情である。したがって聖恵農場では、蔚山やプサンの中小鶏卵商人たちだけに依存して来た従来の方法を脱皮して、これからは損害を負う事がないように指導者たちが対策を請じなければならなくなった。特に、長期間続いた低い鶏卵価格が経営上多くの問題をもたらし、長い間、苦労を味わわされて
来たが、このような時期こそ、一線の指導者たちが情報に敏感でなくてはならないと考えるようになり、現在、直面している鴇卵流通上の問題点を解決するために多角的な接触を計っている。

*聖恵農場の明るい未来
先進国の畜産物輸入開放圧力とともに低卵価時代を迎えている国内養鶏業界は、経営上いろいろと難しい問題を抱えているが、全国にある他の定着村でもこれは深刻な問題である事に変わりはない。しかし、このように畜産業界が暗い陰の中にあっても、聖恵農場は少しも慌てていないようだ。なぜならば、工業団地が必要としている家内工業を今後、蔚山市の膨張に伴って村に誘致して行く事ができる期待をしているためだ。京仁地域の定着村が工場賃貸業へと序々に転換して行っているのに比べて、ここでは直接大企業から下受けした物品を加工して納品する仕事に目を向けている。しかし、「畜産は天職である」という固定観念がまだ村人の心に深く根を下している事もあるため、当分の間は養鶏業が続くでものと見られる。

*少女家長を助ける青年たち
聖恵農場はまだ完全に自立できる段階ではないが、主軸を成している若者たちが最近「それまで自分たちが受けてばかりいた愛を、今度は人に返さなければならない」と主張し出すようになり、大人たちの胸をいっぱいにしている。
青年たちは、これまでに自分たちは困難な環境の中で苦労をして釆たため隣人の痛みがわかると言いながら、昨年の初めから教会の青年会が主軸となって、管内にいる少女家長と姉妹血縁を結び、物心両面において支援の手を差しのべており、地域社会の中で大きな話題になっている。経済的に充分な余裕があるわけでもないのはもかかわらず困難な隣人を助け、それまで受けて来た愛を返さなければならないとする考え方は、同時代を生きて行く多くの人々にとって充分な教訓となるような話ではないだろうか。三十五年という長い歳月を苦しみの中で送り、今や安定を手にして立ち上がろうとしている聖恵農場は、農場入口に立てられた碑石に書かれた文字の通り、まさに神様の祝福を受けた農場であるかもしれない。
最近、何年聞か続いた畜産不況によって飼料代金を始めとした多くの負債が累積し、それが重荷となっているが、それでも聖恵農場の未来は明るいと言える。蔚山を背景として持つ、その立地条件が良くなって来ているのはもちろんの事、村人にどんな物も上手にこなして行けるという自信があるためだ。現在、村に住んでいる八十九世帯、三百余名の人々は、それまでの経験を基にして団結し、一つの教会に仕えながら互いに忠実な隣人同士になろうとしている。特に、二世たちをよく育て、社会が必要とする人材を育成して行こう熱意は、農場全体の共通目標となっているようだ。このような立派な土壌を基に成長して行く聖恵農場は、今後、経済的にも最も先を進む地域として発展して行くだろうと思う。

[原典:「韓星」(韓星協同会発行)、日本語原典:「灯の村」菊池義弘/訳・編]

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