古俗文明圏に立つ 三清農場
六・二五戦乱(朝鮮戦争)当時、激戦地として有名だった慶尚北道・漆谷郡・倭館邑。現在では鉄道や陸路等の交通の要衝地として一躍有名となった土地である。その倭館邑に入ると、ちょうど激戦地の象徴物のようになっている鉄橋を目にする事ができるが、その下には当時の修羅場を知ってか知らずか、川がゆうゆうと流れている。そして、倭館邑から高速道路をぬけると、倭館邑・三清洞に位置した三清農場の優雅な村の全景を見る事ができる。秀麗な山の中にちょぽちょぽと集まっている鶏舎と現代式に飾られた建物が古俗文明圏の中で発展して行く村の姿を見せてくれている。戦争の廃虚の中からこの地へやって釆て、畜舎を建て、定着してから早三十余年が過ぎ、無から有を創造するごとく困難な逆境の中を掻き分けて来た強い意志の所有者たちは今、神様から祝福された彼等なりの天国を熱心に作り上げて行っている。
三十余年前、果てしない苦難の泥沼のような病苦から解放された喜びと、しっかりと生きて行くぞという意欲を抱いて、彼等は不毛地を序々に沃土へ、掘っ立て小屋を現代式家屋へと変えて行った。「天は自ら救う者を救う」という諺の通り、熱心に生きる彼等の前に、やがて慶釜高速道路の建設という贈り物が与えられた。もちろん、それ以前も格別に交通が不便だったという事はなかったが、高速道路の誕生は三清農場に多くの利益をもたらす事となった。地理的な条件はもちろんの事、畜産物の流通過程も良くなり、近隣のテグ市と新興工業都市の亀尾市を繋ぐ便利な路線が、都市文明を一早く受け入れられるようにした。これは天を見上げて溜め息ばかりをついていないで、感謝と喜びの生活をもって一貫して誠実な生き方をして来た彼等に対して天が応えられたのであろうと思う。旧約聖書時代、ゴセン人たちに高山地帯で遊牧をする事ができる特別な恩寵が与えられたように、ハンセン氏病によって苦痛を受けて来た多くの患友たちに、神は畜産業を与えて祝福し、今やその所産を増やすために三清農場はさらなる発展して行っている。
どの農場にも村の発展のために献身した多くの人々がいる。だが、それは彼等の能力というよりは、神様の能力であった事に違いない。ここ三清農場にも神様が下さった能力によって今に至ったような人物がいる。現在、韓星協同会・慶北支部長の職を担い活躍しているべ・ドクヨン氏である。三十余年の長い歳月を農場行政に身を投げうって育成発展させて来たその裏には、人にはわからないような苦衷があったことと思う。指導者の積み重ねた努力をむやみに否認したり無視しようとするのは感謝の心を忘れた据舞いであり、矛盾した行動でもある。最近は三清農場のリーダーもだんだんと若い人々へと変わって来ている。大人たちの労苦を減らし、彼等を感謝しようとする若者たちの心から、和合と団結へと民主化されて行く農場の姿を見る事ができよう。
しかし、まだ不充分な点もあるようだ。「進歩した環境の中での問題点とは養老対策の漠然さである」とペ・トクヨン委員長はその苦衷を語った。現在、五十六世帯、二百二十余名の村人の中には、三十余名の養老対象老人たちがいるが、現在、彼等のために充分な施設を整えてやれないのが現状である。それゆえ関係当局にも訴えて、支援を要請してみたが、費用が高く付くため断わられたという。これは三清農場だけが抱えている問題ではない。全国にある定着村の大部分では今、養老対策の整備が大きな課題となっている。
ハンセン氏病快復者たちは一般の人達以上に、見知らぬ土地に住むのを恐がるという弱点を抱えている。これは長い収容生活と一般の人たちから受けて来た過去の被害意識が、潜在意識として残っているためなのかもしれない。したがって、深い心の内面を考えもせずに、余っている他の施設を利用すればいいというような意見は、あまりにも無責任な言葉であると言えよう。現存する養老施設の予算を再編成するとしても、本当に必要とする人々への支援となるような政策的配慮が足りない。
誰が行ったり来たりしているかもわからず、挨拶言葉に首だけうなづき、前を見る事ができない老人の姿を見ながら、「どうしたらいいのか」という口惜しさだけが湧き起こり、心から慰めになる言葉一つさえも交せられないのが妬ましくさえ思う。庭の木陰で色あせた対話をしながら中腰のまま立っている体が不自由な老人たちが、無言のまま「わしらにも餅を分けてくれよ」と言っているようで心が重くなってしまった。
農場の発展によって、過去と比べれば幾分かは生活が安定し、所得も高まって、余裕を持って生きて行けるようになったが、今だに脆弱な環境の中で不安な心を抱いている隣人の問題は、ただ漠然とだけ考えて黙認していられるであろうか。今や安定基盤の上に立って、明日の繁栄を追い求める三清農場は、今後も先人たちが培った良い基盤をさらに整え、若い指導者キム・イクス氏を中心とした人和団結によって、あらゆる面において先頭を進む模範地域となって行くであろうと思う。
[原典:「韓星」(韓星協同会発行)、日本語原典:「灯の村」菊池義弘/訳・編]