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第18回国際ハンセン病学会報告

The 18th International Leprosy Association(国際ハンセン病学会)
ブリュッセル(ベルギー)(2013年9月16日〜19日)

おうえんポリクリニック 並里まさ子

平成25年の秋、ブリュッセルで開催された第18回国際ハンセン病学会に、おうえんポリクリニックの職員2名(並里まさ子と小久保雅代)が参加しました。この学会は、1897年ベルリンで開催された「ハンセン病についての国際会議」に遡り、その後1931年に「国際らい学会」として発足以来、世界大戦の期間を除いて数年毎に開催されてきました。

古い歴史を持つこの学会は、ハンセン病医学に関する学術研究の他に、ハンセン病対策を重要な課題としており、ハンセン病研究者、ハンセン病対策従事者、ハンセン病体験者の三者で構成されるため、医学・自然科学・社会科学の研究者、ハンセン病回復者とその支援者たちと多彩な顔触れです。

再会

今回は80カ国以上から800人以上が参加登録し、全演題数は710題、ポスター発表は(e-ポスター)常時みられるように設定されていました。Plenary Sessionでは4日間で11人の演者が、多発地帯での疫学と対策、感染と発症のメカニズム、また患者・快復者の視点から見た人権問題と社会適応など、ハンセン病が直面する問題と研究について報告しました。

私・並里は、2002年サルバドールで開催された第16回ハンセン病学会以来11年ぶりの参加でしたが、過酷な環境でハンセン病対策に献身している古い友人・知人たちとの再会で、日々の疲れに爽やかな涼気を得ることができました。20年以上前にインドのSchieffelin Research & Training Center(Karigiri)で研修を受けた時の眼科の指導医Dr. Danielは、かつて日本医来られた時に、我が家にお招きしたことを覚えてくださいました。長らくWHOでハンセン病対策の指揮を執った、疫学で名高いDr. Noordeenは、一回り小さく痩せられて、2000年のアジアハンセン病学会(Agra)で、私の参加を喜んでくださった時のお元気さはありませんでしたが、私の手を取って懐かしんで下さいました。Serologyで有名なDr. Brenannは、10年以上前に疫学調査で出張中にヤンゴンでお会いして以来で、ご高齢にもかかわらず、新たな早期診断Toolの開発に取り組んでおられましたた。現在なお私の研究協力者で、高校の同窓生でもある藤原 剛先生は、彼の下でらい菌特異抗原phenolic glycolipid-I(PGL-I)について研究し、安定した半合成の抗原作成に成功しましたが、彼の名前を聞いて、奥様とともに懐かしんで下さいました。

話題・討論

現在の化学療法は、1982年WHOの推奨するMDT(Multi Drug Therapy:多剤併用療法)に始まります。MDT方式では、一定の治療期間を終了すると、自動的に登録から除かれます(患者ではなくなる)。1990年代に盛んに行われたLeprosy Elimination Campaign: LECなどの活動で多くの患者が発見されましたが、次々と治療を終えて患者登録から外されていくため、統計上の患者数は激減しました。一方新患者数は、過去20年間で約半数になったものの、近年それほどの減少がみられず、今なお年間の新患者数は20万人を超えています(表)。また災害や内戦の続く地域からは報告がないことと、NGOの支援が減ると活動が停滞する傾向が常にあり、素直に楽観できる数値ではないと思われます。2011年の数値には、エチオピア、ナイジェリア、タンザニア等の多発国からの報告が含まれていません。戦乱のアフガニスタンから、国境を越えて中央アジアへ治療を求めて移動する患者の報告もありました。

早期に死に至ることの少ないハンセン病は、国家対策として重視されにくく、古くから大小様々なNGOが支援してきました。世界の巨大NGOで構成される国際救らい団体連合(International Federation of Anti-Leprosy Association: ILEP)は、世界のハンセン病対策の主動力で、この学会の開催・運営もしかりです。「ハンセン病のない世界」を目指して、以下の3つを柱とし、5年間のリサーチ目標を挙げています2)

Develop new tools to prevent leprosy
Improve patients care
Reduce the consequences of leprosy

実際のstrategyとしては8項目を挙げており、今学会は、ほぼこの分類に沿って演題が整理されていたように思います。

  1. 発症を抑えるための予防投与の有効性について:ワクチンの開発、BCGと予防投与
  2. 早期発見の新たなTool:抗体診断、分子生物学的診断Toolの可能性
  3. 化学療法の改良:患者にとって受け入れやすい、治療者にとってより簡便な治療法
  4. 特徴的な神経障害(主にらい反応)の早期発見と治療を、一般保健要員が行うためのマニュアルの改良
  5. 障害の悪化予防対策:足底潰瘍などの予防と治療
  6. 患者と共存する地域社会の整備、および他疾患による障害者対策との協調
  7. ハンセン病と他の疾患(NTD 3)やAIDS)に対するSocial Stigmaの排除
  8. ハンセン病対策をNTD 3)対策と共に一般保健衛生に統合する

世界の3大感染症;エイズ、マラリア、結核に比べて、一般の関心を得られにくい疾患として、WHOは17のneglected tropical diseases(NTD)3)を挙げています。ハンセン病の多発地域は他のNTDの多発地でもあり、これらを統合した疾病対策が勧められています。

既に知覚麻痺や運動障害が残った人々の、更なる障害悪化防止について、多くのNGO活動が紹介されました。また慢性疼痛の病態と発症機序に関するものや、発症時菌指数の高い患者では、基本的な治療完了後も眼科的フォローが必要とする報告は(Dr. Daniel)、日本でも同じ経験をしており、示唆に富むものでした。

新患者数の減少を目指す予防投与については、厳密なコホートの設定が必要との意見が、フロアから出されました。またBCGの有効性は、様々な疫学調査を総合して明らかな効果はみられず、新たなワクチンの開発が待たれるところです。

らい菌は人工培地での培養が不可能なため、研究者たちは分子生物学の進歩をいち早く応用しました。西暦2000年にらい菌の全遺伝子配列が解明される以前から、薬剤耐性関連遺伝子の解明が進み、さらに菌の遺伝子多型を利用した感染経路の追跡、ヒトのらい菌感受性(感染、発症、病型)に関する遺伝子の研究が進んでいます。大きく変化したのは、感染源探求へのアプローチかと思います。20年以上前に、日本人を含む一部の研究者が環境内のらい菌の存在を報告し始めた頃、それに対して日本ではおおむね冷ややかな反応がみられたと記憶していますが、今や注目を集めるテーマの一つとなっています。Dinar Adriatyらの報告が、Young Scientist Awardをもらったことを帰国後知りました。彼女はインドネシアの研究者で、以前筆者が勤務していた施設に見学に来たことがあります。ちょうどラマダン中で、皆と一緒に行動するのは辛かったでしょうに、健気に参加していました。彼女は、ハンセン病の疫学で名高い和泉眞藏先生の教え子で、日本の研究者たちとの共同研究の成果でもあります。彼女たちの発表は、環境内らい菌とそのリザーバーの推測に関するもので、ここまで進んだかと感慨深かく聞きました。しかし日本には大きな支援母体がないため、彼女らの研究もやがて中止せざるをえなくなるかも知れません。長いNGOの歴史を持つ欧米諸国との違いでしょうか。

日本からの発表では、得意分野である環境内らい菌の調査や、薬剤耐性関連遺伝子に関するものが目立ちました。Socialの分野では、長く続いた隔離政策が、患者・家族・社会に与えた影響について報告されました。「らい予防法」は1996年に廃止され、不当な人権侵害を訴えた「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」は2001年勝訴判決を得ましたが、既に高齢化した回復者たちの多くは失った過去と家族を取り戻す術もなく、人生の最終ラウンドを迎えています。私たちは、これらの人々が自由に受診できる場を目指して2005年に開業しました。クリニックには、毎日1,2人が多くの外来患者に混じって受診しています。今回私たちは、クリニックに来られる、ハンセン病の既往歴を持つ約50人の臨床記録を基に、2題報告しました。一つは、障害悪化の防止とQOL改善のために、高齢者にも負担にならない小手術の試みで、他の一つは、日本の隔離政策を経験してきた人々の立場と、彼等を地域医療の場で診療することにより、真のIntegrationを図るクリニックの活動を紹介しました4)

共に生きる

最後に、IDEA(International Association for Integration, Dignity and Economic Advancement)について紹介します。ハンセン病患者・快復者とその家族の地域社会における共生・尊厳・経済的自立を目指して、彼等とその支援者によって運営される国際ネットワークで、1994年に設立されました。IDEAジャパンは、2004年NPO法人として発足しました。今回は、学会初日にIDEAメンバーの会合があり、日本の代表者・森元夫妻と共に、都合良く参加ました。ニジェールからも医師が一人参加しており(ドイツのNGOが支援)、IDEAの広がりに驚きました。20年前にニジェールの砂漠の中の保健所を訪れたことを思い出します。台湾の宗田さん夫妻にも何年振りかでお会いし、変わらず活動を続けておられることを知りました。(2015年~2016年の年末年始にかけて、宗田さん夫妻のお世話で、また台湾の楽生院を訪問できました。)

2010年11月にWHO主催の薬剤耐性に関する会合が東京で開催され、私たちのクリニックがReceptionのホスト役を務めた時に、ウガンダのDr. HJS KawumaがWHOのTechnical Adviserとして参加しておられ、その時IDEAジャパンの快復者の女性Sさんと撮った写真が、Plenary Sessionでの彼のスピーチの最後を飾っていました。帰国後Eメールで、Sさんの近況をお知らせしたところ、リターンメールでSさんと我々の活動に対する暖かい励ましをいただきました。

インドネシアの研究者とDr.Myat Thida
インドネシアの研究者Dinar Adriaty(右端)とその協同演者(左端)、ミヤンマーの国立ハンセン病病院院長Dr. Myat Thida(右から2人目)

  Dr.NoordeenとDr.Myat Thida
筆者、Dr. S. K. Noordeen、Dr. Myat Thida
森元夫妻とノルウェー、ネパール、台湾のIDEA代表者たち
IDEAの代表者たち:台湾、ノルウェー、ネパールからと、日本の代表者夫妻
  ベルギーの王女様がご来場
開会初日、ベルギーの王女様(右端)が来席された。

ブリュッセルの街並み
ブリュッセルの街並み

  ブリュッセルの街並み
ブリュッセルの街並み
ブリュッセルの街並み
ブリュッセルの街並み
  ブリュッセルの街並み
ブリュッセルの街並み

文献

  1. World Health Organization: Weekly epidemiological record, N0. 34, Global leprosy situation, 2012; 87, 317-328.
  2. International Federation of Anti-Leprosy Association (ILEP): Five Year Leprosy Research Strategy 2011 Coordinator: Prof. WCS Smith
  3. World Health Organization: The 17 neglected tropical diseases, 2010 ”Working to overcome the global impact of neglected tropical diseases”
  4. 並里まさ子 森田昌宏 白井拓史 藤原剛:ハンセン病の既往を有する人々の診療について.埼玉県医学会雑誌 2012;47−1:187-191


関連リンク
おうえんポリクリニック

[おうえんポリクリニック 並里まさ子、2016年9月7日]

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