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ハンセン病の薬物治療


ハンセン病は、「らい菌」の感染によって、主に皮膚や末梢神経が侵される感染症の一つです。1943年のプロミンに始まる化学療法剤の効果によって、確実に治癒するようになりました。化学療法とは「病原体を化学物質の働きで殺し、またはその発育を阻止するとともに、感染を受けた人のもつ免疫力と協力し合って感染症から生体を治癒させること」をいいます。現在では、いくつかの薬剤を組み合わせた多剤併用療法(Multidrug Therapy、略してMDT)が広く行なわれています。

「らい菌」は「結核菌」と同じ抗酸菌に属し、性質がとても似ているため、結核治療のための薬がハンセン病にも効くことが多いのです。結核によく効くリファンピシリンが開発されたあとに、ハンセン病治療にも使われてその効果が証明された経緯があります。

多剤併用療法MDT(Multi-drug Therapy)

WHOを通じて途上国に提供されているMDTの治療薬
左がMB、右がPB (MB/PBは「病型の分類」を参照)
ハンセン病の多発地域で、薬剤耐性の出現を抑えて効率よく治療し、感染源を早期に絶つことによって新しい患者の発生を減らしていこうという治療法がWHOのMDTです。3種の医薬品のカクテル(ジアフェニルスルホン、リファンピシン及びクロファジミンの併用)の使用により、ハンセン病を以前よりもずっと速く治せるようになりました。複数薬剤の相加・相乗効果による抗菌力の増強、治療期間の短縮、耐性菌の発現防止、副作用の軽減などをめざした治療で、病型により2剤または3剤の組み合わせがあります。

日本では抗ハンセン病薬として下記の4剤が保険薬として認められています。これらの薬物は、それぞれ異なる作用機序を持ち、併用することにより、耐性菌を出さずに多数の菌を効果的に殺菌することができるのです。

ジアフェニルスルフォン(DDS) らい菌の葉酸代謝を阻害
静菌作用
薬価 100.8円
25mg
リファンピシン(RFP) らい菌の RNA 合成を阻害
殺菌作用
薬価 23.7円
150mg
クロファジミン(CLF) らい菌のDNAに作用
静菌作用/弱い殺菌作用
薬価 247.8円
50mg
オフロキサシン(OFLX) らい菌のDNAジャイレースに作用し
DNA合成を阻害
殺菌作用
薬価 104.7円
100mg

WHO/MDTの治療方法

  PB MB
毎日(自己服用) DDS100mg DDS100mg、CLF50mg
月1回(面前服用) RFP600mg RFP600mg、CLF300mg
治療期間 6ヶ月 12ヶ月
薬価計算 73,144.8円 253,339.2円

病型の分類

MB:菌検査が陽性もしくは6個以上の皮疹のみられる場合
PB:菌検査が陰性で5個以下の皮疹のみられる場合

皮疹が一個の場合には、PBの中から独立してSLPB (single lesion of PB)と分類されています。

このMDTは、医療体制の整っていない発展途上国などのフィールドでも簡便に適応できます。1ヶ月分の薬が、日付入りでブリスターパックに入っています。月に1回、直接監視下で服用する分と、毎日自分で服用する分があります。流行地域での治療推進のための療法で、この治療法を終了した患者は、治癒として登録からはずします。つまり患者としてはカウントされなくなります。このようなWHO方式で患者数を数えると、かつて有病率1万人に1人以上の国が122カ国(1985年)ありましたが、現在ではインド・ブラジルなど6カ国(2001年)まで減少しました。

一方日本では、個々の症例のきめこまかな治療を重視しています。MDTを一部修飾して、治療期間の延長や維持療法を推奨しています。また臨床的治癒の判定基準も設けられています。

WHO/MDTで使用されている薬を、現在の日本の薬価(薬の値段)で計算してみると、3剤併用のMB(12カ月分)では1人あたり約25万円、2剤併用のPB(6カ月分)では約7万円の薬剤費がかかることになります。

ハンセン病治療薬を世界に無料配布

1982年にWHOは、このMDTを最も有効なハンセン病の治療法として採択しました。実際この新療法は予想を上回る効果を発揮し、ハンセン病の治療は大きく前進しました。

現在MDTは、主として日本のNGOの支援によって購入され、WHOを通じて途上国に無料で提供されています。

他の抗菌剤について

菌のDNAジャイレースに特異的に作用しDNAの複製を阻害するフルオロキノロンの中、オフロキサシン(OFLX)に著明な殺菌作用が証明されましたが、その後スパフロキサシン(SPFX)、レボフロキサシン(LVFX)にも同等以上の効果が証明されました。また、テトラサイクリン系の中では、唯一ミノサイクリン(MINO)が抗菌作用を示し、マクロライド系ではクラリスロマイシン(CAM)に有効性が認められています。これらの中、RFP600mg、OFLX400mg、MINO100mgの3剤(ROM)を、月に1回投与するものが検討されていて、SLPBではROMの1回投与で治癒とする方法が採用されています。

地域によっては、月1回の配薬が困難であり、さらに短縮・簡易化した治療法が望まれているのも現状です。

MDTの課題(薬剤耐性)

現在MDTは、多くのフィールドで有効性を保っていますが、近年、DDSとRFPに対する耐性が各地で発見され、重大な問題を提起しています。また、OFLXに対する耐性の報告も出てきました。

らい菌は人工培地では培養できないので、マウスの足の裏に直接らい菌を植えて増殖させ(mouse footpad法)、薬剤耐性などを調べます。しかしこの方法では、結果を得るまでに1年以上も費やすことになります。現在では、遺伝子増幅法であるPolymerase Chain Reaction(PCR)の手法を使って、短期間で薬剤耐性の有無を調べ、適切な薬剤を選択することができます。

今後さらに、抗菌剤耐性情報の臨床フィードバックとモニタリングにも貢献していきたいと考えています。

NEW DRUG

OFLXをはじめとするニューキノロン系抗菌薬は、細菌のDNA合成を阻害することにより抗菌力を発揮します。しかし、繁用に伴い耐性の出現が問題となっています。また、副作用に光線過敏症があげられます。最近市場に出たガチフロキサシン(GFLX)は、以下の点で注目されています。

  1. 抗菌力の増強
  2. DNAジャイレースとトポイソメレースの両方を同程度に阻害することにより、らい菌に対してより効果的な作用を示します。
  3. 光線過敏症の軽減
    今後、ハンセン病の治療薬として脚光を浴びると思われます。

[齊藤栄美(国立療養所栗生楽泉園 薬剤科) 2003年3月3日]

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