ハンセン病とは、1873年にノルウェーのハンセンが発見したらい菌によって、主に皮膚や抹消神経が侵される感染症の一つである。この菌の毒力はごく弱く、感染しても発病することはきわめてまれであり、1943年のプロミンに始まる化学療法の効果によって、確実に治癒するようになった。現在では、いくつかの薬剤を組み合わせた多剤併用療法(Multidrug therapy,略してMDT)が広く行われている。
化学療法がなかったころは、この病気は、らいあるいはらい病といわれ、不治の病と考えられていた一方、顔面や手足などの後遺症がときには目立つことから、恐ろしい伝染病のように受けとめられてきた。そのために、わが国はらい予防法によって、すべての患者を終生療養所に隔離するという厳しい対策をとった。現存する療養所には、国立13ヶ所、私立2カ所の計15ヶ所があり、入所者は5,500名(1995年末現在)ほどである。そのほとんどは、すでに軽快治癒しているが、老齢(1995年末の平均年齢は71歳)である上に、後遺症による重い身体障害を合併するとか、あるいは長期間社会から隔離されていたなどして、復帰の可能性は絶無といってよい。
ところで世界のハンセン病は、発展途上国においてなお数百万人ともいわれるが、わが国に限っては年間に10名以下しか発生していない。このように、わが国からハンセン病患者が激減したのは、患者の隔離が効を奏したというよりも、社会の生活環境や個人の栄養状態などが著しく向上した結果である。ゆえに、隔離を決めた「らい予防法」は、まったく無用な法律として1996年4月に廃止された。
これからのハンセン病は、一般の医療機関において治癒されることになり、ふつうの病気として扱われる。それでも、古くからのハンセン病に対する誤った考え(偏見)が、社会からまったく消えたわけではない。正しい知識を早急に広める必要がある。
[全療協ニュース、1996年]